悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)
悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)とは
悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)図

歯の揺れと聴いて、一般の方々が最初に思い浮かべるのは、歯周病や歯槽膿漏による歯の揺れだと思います。

また、歯周病なのだから、歯が揺れる原因は、歯周病菌で歯を支える骨(歯槽骨)が溶けて(吸収)しまったという理由を考えるのが一般的だと思います。

ところが、レントゲンでは歯槽骨が溶けていて、一見すると歯周病菌に歯槽骨が溶かされたと思える場合でも、実はその主原因が歯周病菌ではなく、噛み合わせに原因がある場合が少なくありません。

この悪い噛み合わせによる歯の揺れや歯槽骨の溶け(吸収)のことを、専門用語では、咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)と呼んでいます。

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)の解説

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)は、歯に過度の噛み合せの力が掛かることによって、その刺激により歯が揺れて周りの歯槽骨が溶ける(吸収)ことにより起こります。

咬合性外傷は、一般の方にはあまり知られていない歯の病気なので、歯が揺れ出したり、歯茎が腫れたりすると、歯周病菌で歯槽骨が溶けたと思われる方がほとんどです。

実際、多くの歯科医師も、咬合性外傷が主原因で歯槽骨が溶けていても、咬合性外傷が一般的でないため、患者さんには歯周病として説明している場合が少なくありません。

咬合性外傷は、 骨は硬い物との一般常識があるため、硬い物が溶けてしまうという感覚が分かりにくいと思います。

ところが、顕微鏡レベルで骨を見てみると、硬い骨も内部はスポンジのように細かい網目状の構造になっていて、その間には空間が存在します。この網目状の部分に大きな力が掛かると、網目が崩れて骨が溶ける(吸収)という現象になります。

咬合性外傷が起こるのは多くの場合、奥歯なのですが、それを引き起こす悪い噛み合わせは、実は前歯の場合が多いのです。

つまり奥歯が揺れている主原因が、実は前歯にあるわけです。

注:咬合性外傷は前歯でも起こりますが、説明のために奥歯を中心に解説しています。

咬合性外傷による歯槽骨の変化
悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)正常歯肉
正常な歯茎の状態

歯槽骨は歯茎の下にあるため、実際には目にすることがありません。

右の写真は、歯槽骨が溶けていない正常な歯茎の状態の模型です。

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)正常骨
正常な歯槽骨の状態

歯茎の下の歯槽骨の状態が見えるようにした状態です。(白い部分が歯槽骨です)

正常な歯槽骨は、歯を支える骨の量が十分にあることがわかります。

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)骨溶け
歯槽骨が溶けている(吸収)状態

こちらは、咬合性外傷で歯槽骨が溶けてしまった状態です。(通常の歯周病でも似たような状態になります)

歯を支える歯槽骨の量が少なくなっています。

歯槽骨を粘土に例えてみた咬合性外傷の解説
悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)正常力
奥歯への適切な上方向からの力

咬合性外傷での歯槽骨の溶ける(吸収)メカニズムは、複雑で分かりにくいのですが、歯を支えている歯槽骨を粘土と似たような物と考えると理解が容易になります。

右の写真は、正常な噛み合わせの状態の時に奥歯が受ける噛み合わせの力を示した模型です。

前歯が良い噛み合わせの場合には、前歯、奥歯両方で、顎全体の噛み合わせの力を負担するため、奥歯には適切な噛み合わせの力が掛っています。 (青い矢印)

また犬歯誘導という状態が確立されているので、奥歯への噛み合わせの力は、主に上方向からの力のみになります。

このような時、歯槽骨(粘土)には、変化がありません。

犬歯誘導 悪い噛み合わせ治療の原因,犬歯誘導詳細

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)過度上方力
奥歯への過度な上方向からの力

こちらの写真は、前歯が悪い噛み合わせの時に、奥歯に掛る噛み合わせの力を示した模型です。

前歯で負担するべき顎の噛み合わせの力がすべて奥歯に掛ってしまい、上方向から過度な噛み合わせの力が掛かります。 (赤い矢印)

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)過度横方力
横からの過度な力で骨(粘土)が変形

また、前歯が悪い噛み合わせの場合には犬歯誘導も確立されないことから、奥歯に上方向からの過度な噛み合わせの力以外に横方向からの噛み合わせの力が加わります。(赤い矢印)

こういった上と横からの過度な噛み合せの力が毎日少しずつ掛かると、歯が揺さぶられ、結果、歯の周りの歯槽骨(粘土)が変形 して溶けてしまい、歯が揺れ始めます。

特に奥歯への横からの過度な噛み合せの力は、奥歯全体に掛かるのではなく、最初のうちは奥歯1~2本に集中して掛かるため、全体に歯が揺れるのではなく、奥歯の1~2本だけが揺れるようになります。

咬合性外傷を起こす前歯の悪い噛み合わせの種類

咬合性外傷によって奥歯の揺れが起こる前歯の悪い噛み合わせは、大きく分けると次の4種類に分けられます。

上下の前歯が噛み合っていない場合に起こる咬合性外傷

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)オープンバイト

上下の前歯が噛み合っていないことを、専門用語では、オープンバイトといいます。バイトは英語で噛み合わせの意味ですので、開いている噛み合わせの意味です。この噛み合わせの場合、見た目は一見、歯並びがそろっていて、良い噛み合わせに見えるのですが、前歯が噛み合っていないため、奥歯に前歯が負担する噛み合せの力がすべて掛かってしまい、 奥歯に過度の噛み合わせの力が掛ります。

また、上下の顎の犬歯(糸切り歯)があたらない状態なので犬歯誘導がなく、奥歯に横からの 過度の噛み合わせの力も掛ります。

犬歯誘導 悪い噛み合わせ治療,犬歯誘導詳細

前歯が深く噛み込んでいる場合に起こる咬合性外傷

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)ディープバイト

下の前歯が上の前歯の歯茎に噛み込んでいる場合、専門用語では、噛み合わせが低く深いという意味でディープバイトと言います。

この場合にも、前歯は歯茎と噛んでいるので、前歯で負担する噛み合わせの力を負担していないことになり、その分、奥歯に過度の噛み合わせの力が掛ります。

低い深い噛み合わせ 悪い噛み合わせ,低い深い噛み合わせ詳細

八重歯など犬歯の歯並びの状態で起こる咬合性外傷

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)八重歯

前歯4本は噛み合っていても、犬歯 (糸切り歯)が八重歯などで、上下の犬歯が噛んでいない状態の場合、犬歯誘導が確立されていないため、奥歯に横からの 過度の噛み合わせの力が掛ります。

犬歯誘導 悪い噛み合わせ治療,犬歯誘導情報

前歯の噛み合わせが反対の状態で起こる咬合性外傷

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)反対咬合

下顎の前歯が上顎の前歯より前に出て噛んでいる状態を専門用語では、反対咬合と言いますが、この状態の噛み合わせの場合、前歯は噛み合わせの力をほとんど負担出来ないため、奥歯に噛み合わせの過度の力が掛ります。

またこの写真では違いますが、犬歯の噛み合わせも上下が逆の場合には、犬歯誘導が確立されていないため、奥歯に横からの 過度な力が掛ります。

咬合性外傷と歯周病の違い

歯周病菌による歯槽骨の溶け(吸収)と、咬合性外傷 による歯槽骨の溶けの違いは、症状としては、歯槽骨が溶けて歯が揺れるという、まったく同じ状態ですので、分かりにくいのですが、歯周病菌による歯槽骨の溶けが全体的なのに比べて、咬合性外傷の歯槽骨の溶けは、数本の歯に限局するという点で、ある程度の区別が可能です。

つまり歯周病菌による歯槽骨の溶けは、菌はお口の中全体にありますので、歯槽骨の溶けも全体的に起こる傾向にあります。

それに比べて、咬合性外傷は、一部の歯に過度の噛み合せの力が掛かって歯槽骨が溶けるため、歯槽骨の溶けも最初のうちは1~2本に限局して起こります。

ただし、咬合性外傷も症状が進むと、かなりの数の歯が揺れ始めたり、逆に歯周病が進むと咬合性外傷を併発することが多くなるため、重度になると区別は難しくなります。

咬合性外傷による歯の揺れと骨の溶けの実例 (43歳男性)
悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)実際例写真

右下の奥歯の揺れでいらした方です。

全体的にみると、歯の着色などはありますが、歯並びも良く、前歯の歯茎の状態もそれほど悪くないようで、一見なんの問題も無いように見えます。実際、ご本人は歯並びの良さに自信を持っていました。

しかし、良く見ると前歯の犬歯(糸切り歯)から犬歯までの上下の間に隙間があり、前歯が全く噛んでいないことがわかります。

この状態だと前歯で負担するべき噛み合せの力がすべて奥歯に掛かります。また、犬歯が噛んでいないため犬歯誘導も無く、奥歯に横からの過度の噛み合わせの力が掛ります。

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)実際例レントゲン

同じ方の全体的なレントゲン写真です。

分かりにくいかもしれませんが、向って右下の奥から2番目の歯の根の周りが、他の歯の根の周りより、濃い色になっています。 (歯槽骨が溶けている状態)

更に全体的な上下の歯の隙間を比べると、右下の奥から2番目の歯の上下の歯の隙間が他の部分より狭いことがわかります。

もし歯周病菌による歯槽骨の溶けであれば、全体的な歯槽骨の溶けが見られるはずですが、レントゲンでは、他の歯の歯槽骨には大きな変化は認められません。

ですので、この方の歯の揺れの主原因は、前歯が噛み合っていないことから、右下の奥から2番目の歯が上方向と横方向から噛み合せの過度な力が掛かり、歯槽骨が溶けた咬合性外傷ということがわかります。

(白い部分は詰め物や被せ物などです)

前歯が深く噛み込んでいる方の治療例 63歳男性

奥歯の腫れと痛みで、いらした方です。また、肩こりや偏頭痛も激しく、整体に毎週通っているとのことでした。

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)治療前

診査の結果、 過去に治療した奥歯の被せ物や詰め物の高さが低く、上の前歯が下の前歯を被い隠していることからわかるように、下顎が深い噛み合わせになって奥歯に強い噛み合わせの力が掛かる咬合性外傷の状態になっていました。

また、前歯の差し歯の周りの歯茎は、差し歯の内面に使われていた銀の金属イオンが歯茎に出てきているようで、歯茎が黒っぽく変色し、腫れていました。

悪い噛み合わせによる歯の揺れ(咬合性外傷)治療後

奥の低い被せ物や詰め物を外し、歯茎の処置などの基礎治療をしてから、ジルコニアオールセラミッククラウンの差し歯で全体の噛み合わせを高くしました。 また、差し歯によって安定した噛み合せの基本(犬歯誘導)の状態を作り、理想的な噛み合わせ状態にしました。

噛み合わせが正常な状態になったので、奥歯への負担も少なくなり、奥歯の腫れや痛みが改善しました。下の前歯が、低く深い噛み合わせの時より、見えているのがわかります。

内面に金属を使わないジルコニアオールセラミッククラウンの差し歯に変えましたので、歯茎の色 や状態もとても良くなりました。

また全体的な噛み合わせの改善に伴い、肩こりと偏頭痛も解消し、毎週通っていた整体へも通わなくてよくなりました。

治療後は次亜塩素酸電解除菌水を使用していただくことで、お口の中に虫歯菌と歯周病菌が居ない状態を保つことによって、治療後の歯と歯茎は良い状態を長く保っています。

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