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むし歯と同じように、歯槽膿漏・歯周病は口や歯にすみついている歯周病菌が原因。他人からの唾液感染で起こります。 生まれた時には無菌状態の赤ちゃんも、歯が生えてくるころから、むし歯菌や歯周病菌に感染します。しかし、感染したからといって、ただちに歯周病を発症するわけではありません。 健康な口の中には300~700種類(成人)もの細菌がすみついていますが、約7割は体に害を与えず、むしろ、体の免疫を整えるなど、体によい働きをする善玉菌です。残りは歯周病菌やむし歯などの病気の原因となる細菌(悪玉菌)で、両者はバランスを保ちながら共存しています。 このバランスが崩れることが問題です。 健康な口の中では姿を隠していますが、歯みがきを怠ると悪玉菌であるむし歯菌の数がぐんと増え、善玉菌を圧倒します。そして歯の周りにネバネバとした物質を作り出します。 ここには細菌がすみつきやすく、やがて細菌のかたまりである歯垢(プラーク)の形成が始まります。 さらに歯周病菌などがすみつくと成熟したプラークに発展し、バイオフィルムを形成します。 歯槽膿漏・歯周病の見分け方を、動画でわかりやすく解説しています。 歯槽膿漏・歯周病の見分け方についての解説動画(音有) 歯と歯肉の間の境目には健康な状態でも0・5~2ミリ程度の溝(歯肉溝)があります。プラークを放置していると細菌が歯ぐきの中に入り込もうとして、体がこれを阻止しようとします。 この反応によって炎症が起こり、歯ぐきが赤く腫れた状態が「歯肉炎」です。同時に歯肉溝は歯肉の腫れによって、見かけ上、歯と歯肉の境目が深くなる「仮性ポケット」と呼ばれる溝を形成します。 この段階では歯肉の腫れとともにむずがゆさ、歯をみがいた時の出血といった症状が表れます。この段階で気づき、プラークや歯石を落とすケアをすると仮性ポケットは元の浅い状態に戻ります。 ですので、歯をみがくと血が出るのは、重要な歯周病・歯槽膿漏の初期症状のサインなのです。ところが、多くの人はこの段階で歯科にいきません。むし歯と違って歯周病は発症しても痛みの症状がほとんどないからです。 また、歯肉も健康な状態(ピンク色)とは違い、炎症によって赤味をともなっている場合が多いのですが、この赤味をともなった異常な歯肉を健康な歯肉とみわけるのは難しいのです。 そうこうしているうちに、じわじわと歯周病は歯ぐきの中で進行し、歯の土台となる歯周組織を壊していきます。そして、気づいた時には歯がグラグラ、抜ける寸前、ということに。 中には抜けて初めて「歯周病・歯槽膿漏」に気づく人もいるのです。実は歯を失う一番の原因は歯周病なのです。まさに歯周病・歯槽膿漏が「サイレント・ディジーズ(静かに進行する病気)」といわれる、ゆえんです。 初期の歯周病である歯肉炎。これをほおっておくと歯肉溝が深くなり、さらにプラークがたまりやすくなります。 そして、歯肉溝は仮性ポケットから、病的な歯肉溝である「歯周ポケット」といわれる状態に進行します。歯肉がむずがゆかったり、触るとプヨプヨします。この段階では歯周病でも軽度なので、適切なケアで回復可能です。 しかし、放置しておくとさらに炎症が強く広がり、歯肉の色も赤くなり、また、本来、歯を覆っていた位置から下がって、歯の根元付近が徐々に露出してきます。鏡で見ると歯が長くなったように見えるのです。 この段階では外からは見えませんが、歯を支える骨(歯槽骨)が徐々に溶け始めています。歯の違和感や歯の揺れ、口の中のねばつきや口臭などもひどくなってきます。 それでも歯周病・歯槽膿漏と気づかない人は多いのです。 この段階ではプラーク除去などの治療だけで改善されないことも多く、手術(歯周外科治療)を行うこともあります。 さらに進行すると重度の歯周炎(歯周病・歯槽膿漏)になります。 X線で撮影すると歯槽骨が減っているのが確認できます(歯周病菌の毒素にむしばまれて、骨が溶かされ、体内に吸収されてしまった結果です。骨が破壊されているとも、いいます)。 歯周ポケットは6㍉以上になり、歯と歯のすき間も目立つようになります。歯肉からは膿や血が出て、口臭は一層、強くなります。 また、歯槽骨が溶けて歯の根の長さの半分くらいまで失われると歯がグラグラし始め、ものが噛みにくくなってきます。発音しづらくなることもあります。 さらに進むと歯槽骨が歯の先まで失われ、歯は土台を完全に失うため、最後には歯が抜けてしまいます。 歯周病・歯槽膿漏の特徴は、その原因が口の中の歯垢(プラーク)や歯石だけではないということです。歯みがきを入念にしていても、急速に歯周病が進むことがあります。 糖尿病などの持病がある、体調の悪化、睡眠不足、ストレス、食事のバランスが悪い、タバコ┅┅。歯周病・歯槽膿漏はこうした身体の問題や生活習慣で悪化します。 また、遺伝的な要因や噛みあわせの影響もあると考えられています。 そうした意味では、むし歯にはならなくても、歯周病・歯槽膿漏になってしまう人はたくさんいるということです。 歯周病・歯槽膿漏は歯周病菌だけでなく、患者自身の免疫力など全身状態、生活習慣などの環境因子の3つがからんで起こります。 細菌因子は口の中にいる歯周病菌の状態です。歯みがきが不十分で、口の中の汚れがひどくなれば歯周病菌が増殖し、歯周病・歯槽膿漏が悪化しやすくなります。 患者自身の免疫力については、歯周病菌は免疫力が低下すると増えるため、これにともなって歯周病、歯槽膿漏も悪化します。代表的な例が糖尿病です。 糖尿病になると免疫力が低下するため、歯周病・歯槽膿漏があると悪化します。逆に歯周病を治療すると血糖値のコントロールがよくなることが知られており、最近では、内科の先生が歯科医院を紹介するケースも増えています。 ある患者さんは会社の健診では糖尿病を指摘され、血糖改善薬による治療を続けていました。同時に食事や運動にも注意しましたが、なかなか血糖値が安定しません。 しかし、歯周病の治療をしたところ、血糖値が徐々に安定。現在もいい状態を維持しています。 また、免疫力とは少し異なりますが、女性はホルモンの変動にともなって歯周病・歯槽膿漏が悪化しやすい時期があります。特に妊娠中には歯周病が悪くなることがわかっており、重度の歯周病・歯槽膿漏になると流産の危険が高まることがわかっているので、早めに歯科にかかって、口の中の環境を整えておくべきです。 生活習慣などの環境因子については、すでに実感されている人も多いのではないでしょうか。体調が万全でないときほど風邪にかかりやすいように、歯周病・歯槽膿漏も増殖します。また、肥満や運動不足も歯周病・歯槽膿漏の悪化を促進するといわれています。 タバコのニコチンに含まれる有害物質は免疫機能や細胞の働きを阻害して、歯周病・歯槽膿漏の進行を早め、治りにくくしてしまいます。 タバコを吸えば吸うほど、歯周病・歯槽膿漏になりやすいことがわかっています。 このため、歯周病の患者さんに対しては禁煙をすすめることになります。長年、吸い続けてきた人に取っては非常に難しいことですが、タバコをやめると、歯周病・歯槽膿漏の状態はとてもよくなりますし、再発しにくくなります。 タバコを吸い続けている歯はヤニだらけになりやすく、見た目にも損であると思います。また、当然ながらタバコは肺がんをはじめとする各種がんの発症リスクを高めます。 わかっているけれど、やめられない┅┅。でも、歯周病・歯槽膿漏になったらタバコをやめられるいい機会です。 |
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