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一般的には、安定した良い噛み合せというと、きれいな歯並びを想像しますが、全体のバランスから安定した良い噛み合せを考えると、単に見栄えが良いだけでは、安定した良い噛み合せとは言えない場合があります。 例えば、時々なんとなく痛くなるけど、数日すると治ってしまう。ちょっと気になるので、歯科医院へ受診したけれども、レントゲンを撮っても、歯周病の診査をしても、なんの問題も見つからなかった。という経験をされたことがある方はいらっしゃいませんか? 実はこれ、痛い歯が奥歯の場合、原因のほとんどは噛み合せが関係していることが多いのです。さらに意外なことには、奥歯が痛いのに、その原因の多くが前歯の糸切り歯(犬歯)が関係しているのです。 普段は意識していませんが、人間は(動物も)食べ物を食べる時、顎を上下に動かすだけではなく、左右にも動かして食べ物を噛み砕きます。 上下の歯は、顎を噛み合せた時には、すべての歯が噛み合っています。ところが左右に顎を動かした時には、上下の糸切り歯(犬歯)だけが噛み合って、上下の奥歯にはわずかに隙間ができるのです。 つまり、左右に歯ぎしりして(顎を動かして)その位置で顎を止めると、糸切り歯(犬歯)だけが噛み合い、奥歯は噛んでいない状態になるのです。この状態のことを、専門用語では『犬歯誘導』(けんしゆうどう)といいます。 奥歯は縦方向の噛む力には、強いのですが、横方向の噛む力には、比較的弱いという特性があります。ですから、横方向に力が加わる左右の顎の動きの時には、根の長い丈夫な糸切り歯(犬歯)のみが噛み合って、奥歯に横方向の噛む力が伝わらないようにする犬歯誘導の状態が安定した良い噛み合せの大切な要因になるのです。 ところが上下の糸切り歯が、歯並びの関係や虫歯、歯ぎしりによる磨耗などで、顎を左右に動かした時に噛み合わなくなると、横方向の噛む力が奥歯に伝わるようになります。 そしてこれが、奥歯の知覚過敏、虫歯、歯の割れ、歯のグラつき、歯槽膿漏、顎関節症などの一因になる場合があります。 この状態のことを専門用語では咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)といいます。
上下の歯をまっすぐに噛み合せた状態
右の写真は、上下の歯をまっすぐに噛み合わせた状態です。一般的には、食べ物を噛む時に上下の歯が常にこの位置で噛んでいると思われている方々が多いのですが、実際には顎が左右に動いて食べ物が噛み砕かれますので、常にこの位置で噛んでいるわけではありません。 この噛み合わせの位置は、歯の噛み合わさる面の頭どうしがしっかり合わさることから、専門用語で『咬頭嵌合位』(こうとうかんごうい)と呼ばれています。 犬歯誘導が確立している状態(上)
右の写真は、下顎を右方向に歯ぎしりして、その位置で止めた状態です。この噛み合わせの位置は、専門用語では『側方運動時』(そくほううんどうじ)の噛み合わせと呼ばれています。 良い噛み合わせでは、この側方運動時に、 右の写真の左から数えて5番目の上下の糸切り歯(犬歯)のみが噛み合っていて、奥歯4本は噛み合っていない状態になっています。 この状態のことを犬歯誘導と呼び、安定した良い噛み合わせの最も大切な要素の一つです。 犬歯誘導が確立していない状態(下)
右上の写真に対して、こちらの右横の写真では、下顎の糸切り歯(犬歯)を意図的に欠けさせてから、下顎を右方向に歯ぎしりさせて側方運動を行っています。 上下の糸切り歯(犬歯)が噛み合わないので、上下の奥歯4本が当たって 横方向の力が掛かっています。この状態のことを犬歯誘導が確立していない状態と呼び、これによって奥歯に様々な問題が起こる場合があります。 顎関節症治療前
顎の音と痛みを訴えていらした方です。 診査の結果、前歯の上下が空いていて、安定した噛み合せの基本(犬歯誘導)が確立しないことで、下の顎が安定せず、また下顎の中心が、向かって左側に大きくずれていることがわかりました。 顎関節症治療後
上の奥歯すべてと糸切り歯を ジルコニアオールセラミッククラウンに変え、全体の噛み合わせを下げて上下の前歯が当たるようにし、安定した噛み合せの基本(犬歯誘導)の状態を作ることにより顎を安定させました。 それと共に、下顎の中心が上顎の中心に来るように、噛み合わせを作り直しました。 下顎の位置が正常に戻ったので、顎の音が消え、痛みもなくなりました。 ジルコニアオールセラミッククラウンにしなかった上下の前歯は、ホームホワイトニングをして白くなりましたので、見栄えも良くなりました。 |
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